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# 2

katsuki murase

COLLECTION #3

各写真をマウスでクリックすると拡大します。

至福の時でしたね~。

ache せっかくなので復元作業の過程についてのお話しもお願いできますか?。
 

村瀬 アーマチュアに綿をアバウトに巻き付けてからタコ糸の縛り加減で筋肉を表現して、これに毛で覆う部分には直接筆で液体ラテックスを塗り重ねながら成型していくという、1933年当時のデルガドと同じ製作手法でやりました。モデルアニメ職人になりたかった者としては至福の時でしたね~。

 

ache やりたかった事の一つが実現したんですね。

 

村瀬 コレクションや作品に囲まれて中央の作業台で製作をしてる時の楽しさ。そして仕事がやたら早いのは趣味として楽しんでいる感覚でなく、多分プロが締め切りに追われている感じも味わってるんだと思います。acheさんは、特殊メイクの道に挫折した分の穴埋めがコレクションの原点との事でしたが、僕もモデルアニメ職人になれなかった穴埋めでもあります。コレクションルームと合わせて特撮のワークショップが欲しいんでしょうね(笑)。たっぷりと職人気分に浸れる空間と時間が。

ache もはや穴埋めでは無い気が(笑)。その至福の時ってやつ、復元されたコングを見ると気持ち解りますよ。本当に楽しんでやったんだなって。

 

村瀬 現代の技術だとリアルに作ってしまうんですが、コングの魅力はデフォルメされて怪獣として確立されている事だと思います。リック・ベイカーは素晴らしいですけど、リアルならいいのかと言うとそうじゃないんですね。当時は資料もあやふやだったせいもあるのでしょうが、誰もがゴリラや恐竜を知ってる今だからこそ、デフォルメが必要な気がします。

 

ache デフォルメによって個性が生まれる。確かに既存する動物を大きくしたり、リアルに造型しただけでは何の魅力も生まれないかも。映像作品など、作り手のセンスや解釈によって作品の出来が大きく左右されるのと同様に、職人達の腕の見せ所が「デフォルメ」なのかなって。逆にやり過ぎちゃって不評な作品も数多いですが、その辺はバランスなんだろうなぁ。

 

村瀬 鶏に進化したT-REXでなく大トカゲのティラノサウルスで、アパトサウルスでなくブロントサウルスなんです。デフォルメ版は目をゴジラっぽくするか当時に忠実にするか悩んだあげく目を回転させて裏側までいくと小さい瞳が出てくるようにしたんです。目が球体だから出来る技なんですがアーマチュアの構造的にオブライエンも多彩な表情をつける為にやってたかもしれないな~なんて考えるとワクワクしましたよ。自分のオリジナルデザインのままでもよかったのですが、やはり巨大なコングは遠くを見下ろしてる目が一番コングらしいです。これは無敵を表現するんだと思いますが、エンパイアステートビルの上で複葉機を見上げた目線は弱々しく感じます。作るって事で、こういう事を色々感じれるのがコレクションが増える以上の醍醐味でやめられない理由です。


ache 最終的には同じ様に自分で作ってみる。究極のコレクションかも(笑)。

 

村瀬 レプリカをわざわざ復元しなくても、基となるアーマチュアのボールとソケットは加工が大変な金属でなく、厚いプラ板とか、もしくは木だと割と簡単なのでやってみたらいかがですか?。細かい指とかはヒューズ線で十分です。

 

ache そんなに簡単に?

 

村瀬 そんなインスタントな手法で作ったアーマチュアを基に、更に2005年版と1933年版の両方作ってみました。外科手術用の更に薄いものがあれば一番ですがサランラップで十分ラバーから鉄を守れます。実際流用が多いプロもそうしてます。飽きたら簡単に剥がして簡単なディスプレイ台を作れば隣りに置けますし、同サイズの市販のフィギュアから顔や手足は型をとっちゃうのも簡単です。型どりは石膏よりシリコンの方が簡単ですがアーマチュアに使うにはシリコンは固まると接着も塗装も出来ません。物は考えようでシリコン自体で接着するとか先に色つきのシリコンにして細かい所は多少のハゲも味としてアクリル絵の具でって手もあります。プロは撮影で綺麗ならいいんで補修を繰り返すようですが。手間はかかるけどラバーにラバーペイントで塗装と補強がいいですね。うちはたまに艶のない車のタイヤの保護剤を塗って維持してます。

 

ache なるほど〜、勉強になりました。

 

 

 

マニア的な部分が料理で言うとアクなのかコクなのか。

 

ache ここまでの話しだけでも十分に村瀬さんのコング愛が伝わってきましたが、まだまだ語っていただいても大丈夫です(笑)。実際のコングは四体あったという話し、興味あるのですが。

 

村瀬 全部記憶での話しなので間違いがあれば笑って許して下さい!。その四体は〈ロングフェイス〉〈ラウンドフェイス〉〈ヒューマンタイプ〉〈ミッシングリンクタイプ〉に分かれます。スチール写真でよく使われ一般的に一番イメージされるのが〈ロングフェイス〉。丸太を落とすシーンが代表的です。これが市販でも一番モデル化されていて、エクスプラスから出たソフビもこれです。アーマチュアは他映画に流用後廃棄されてしまい、溶されてない事を願い探すファンも多いです。〈ラウンドフェイス〉は、初登場やプテラノドンとの戦いや門を破って原住民やニューヨークで市民を襲う怒りの表情が代表でオブライエンも私も一番のお気に入りです!サイドショウのレプリカにもなったボブ・バーンズ所有のアーマチュアがこれです。〈ヒューマンタイプ〉は、絶妙な表情を見せる時、アンの服を脱がせたりのシーンが代表。プロップ自体は行方不明で、後年ジョーヤングのアーマチュアの1体に流用され、結局ハリーハウゼンがジョーヤングとして所有している四体のどれかがそれではないか?という話しがあるのですが定かでないです。〈ミッシングリンクタイプ〉は弱った悲哀のある顔でガス弾にやられた時やビルで複葉機と戦い落ちるシーンが代表。スタジオのガードマンがゴミ捨て場から拾って子供の玩具から古道具屋へ二束三文で売却しちゃったんです。現在このアーマチュアは東洋人が所有しているとの噂があります。

 

ache ありがとうございます!勉強になるなこの対談(笑)。やはり色んなタイプのコングが存在したうえで、あの特撮が成立していたという事なんでしょうね。職人達の知恵を絞った技術と工夫により、ボディダブルみたく、シーンの雰囲気に合ったアーマチュアを用いて合理化を図ってたと言うか・・・。

 

村瀬 実はアーマチュアが四体あった一番の理由はそれだけ壊れやすかったって事です。オブライエンの作業には傍らにデルガドがずっと待機してたそうですし。切れ目を入れてボルトを加減するのはもちろん、やはりラバーレイテックスや塗料の破損で修理中も撮影を中断させない為でシーンによって使いたくないコングを使っている場合もあったでしょうね。

 

ache 良し悪しは別として、やはりその点ではCGなど現代の特撮技術で蘇らせたピーター・ジャクソン(※2005年版キングコングの映画監督)版コングのほうが明らかに撮影効率が良かったはず。村瀬さんの見解などを聞かせてもらえらたらなと。

 

村瀬 オリジナルへの愛情に溢れてましたよ。ショックと感動でしたね~。だから映画館に行くのは最後にしました。自分なりの白旗です。

 

ache 具体的にどういった点を評価されました?。

 

村瀬 ピーター・ジャクソンはコングの演技をモーションキャプチャーで行いましたが、これはリメイク中一番の成功と言っていいんじゃないでしょうか。リアルだけど単純にゴリラを大きくしただけでなく、傷や歪んだ顎等アイデアを取り入れてちゃんとコングとしてデザインされてる所を評価してます。映画としては長いという欠点はありますが長年の想いが実現する場合あれくらいは許してあげてと弁護したいですね。でもオリジナルと同じくらいの時間にまとまれば一般的な人達にももっと受け入れてもらえた映画だったんじゃないかと。本当はピーター自身がコングを演りたかったと思うんですが自分の身近な例ではアニメの現場で声優に的確な指示をする監督でも役者として演ってみたら棒って事もありまして(笑)。ピーター・ジャクソン版コングは平行な目線が多いんですが、これは島でも無敵ではなく互角な敵がいる事と複葉機が恐いのでなく恐れるのはアンが傷つく事っていう表現なんじゃないかと。役者の演出と同じで、モデルにも目線や腰の高さとかこだわってたんでしょうね。余談ですが、コングを攻撃する複葉機のパイロット役に76年版でコングを演じたリック・ベイカーがカメオ出演している話は有名ですがピーター・ジャクソンも映画監督のフランク・ダラボンもトレードマークの髭を剃って乗ってたりします。コングへの思い入れの分、非常にいい表情してましたよ。33年版のクーパーとシュードサックのパイロットより名演技だったかもしれません。あとボブ・バーンズは奥さんとコングが劇場から飛び出してくるのをビックリするシーンでカメオ出演してますがこれはアーマチュアを持って来てもらうついでで(笑)。

 

ache 過去作品へのオマージュとコングへの愛情を詰め込み過ぎたせいか、映画自体は僕も長く感じました。後半に繋ぐために前半の長さは必要と言えば必要な時間だったとは思うのですが。まあその分、映画館の大スクリーンとWETAの特殊効果や音響の迫力が長さをカバーしてくれていたかなと。

 

村瀬 マニア的な部分が料理で言うとアクなのかコクなのかって難しい事ではあると思います。これはプロデューサーの仕事で私も常に悩む事なんです。それは自己満足じゃないか?それは媚びてるだけじゃないかって。ピーター・ジャクソンもギリギリまで悩んだと思いますよ。でも多分自分の人生そのものを簡単に切れるかっ!て答えだったんじゃないかなと。アッカーマンとフェイ・レイのカメオ出演は実現出来ずに亡くなり本当に残念でしたね。最後の台詞をフェイ・レイ自身が、それに頷くアッカーマンに首を振りながら呆然と立ち去るデナムのシーンは観たかったです。記者達がビルを見上げて言ってましたよね、殺されるのが解ってて何であんな所に登ったんだって。ピーター・ジャクソンが出した答えだったんじゃないでしょうか?野獣は美女に殺されたのではなく美女を守る為に死を選んだと・・・。
 

ache 自分の為だけに映画をつくることが許される映画監督って数少ないと思うのですが、ピーター・ジャクソンはそれに該当する人物だったのかなと。願望が全て反映されていたと言っても過言じゃないかも知れませんし。ただ映画監督というポジションを忘れず自己の欲求を満たし、エンターテイメントに仕上げた「コング愛」には共感できる何かがあったのは確かです。でも、とにかく際立って感動したのは恐竜やコングの動きなどを再現した「現代の技術」でしたけどね。

 

村瀬  頑固職人のハリーハウゼンは秘密主義で苦労した分、ジム・ダンフォースやデビット・アレンは後進の為に惜しげなく「技術」を公開してきたおかげで「現在の技術」に至ると思います。CGもモデルアニメの感性が絶対必要とスピルバーグもジュラシックパークの時に既に言っていたようですが確かだと思いますね。WETAってその辺の心がよくわかってる集団ですよね。今だに憧れますよ。

 

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COLLECTION #4

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